事業主のための就業規則 懲戒編

 事業所でこんなことはありませんか。

 ・従業員が何度注意しても遅刻してくる

 ・勤務中にインターネットで仕事に関係ないページを閲覧している

 ・勤務時間中にいなくなってしまう

 ・タイムカードの打刻を正確にしない

 ・無断欠勤をする

 ・事業所内で窃盗、暴行、脅迫など犯罪行為を行う

 ・飲酒運転で事故を起こす

 ・業務上の秘密を外部に漏らす

  など

 このような行為が起こったとしたら、事業所として従業員をそのままにしておくことは良くありません。企業の秩序を維持するために、使用者には懲戒権が認められています。事業主としては、そこで働く従業員全員が気持ちよく働くことができるような職場にしていくためにも、問題を起こした従業員には指導をしていくことが必要であり、規則を守れない者には懲戒処分を下すことが大切です。

 ただし、事業主が懲戒権を行使するにあたって、注意すべき点があります。労働契約法に「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質および態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効とする。」と規定されています。そのため、権利の濫用にならないために次のことについて注意しなければいけません。

 

 1.就業規則に、該当する懲戒事由が記載されていること

  前記した「従業員が何度注意しても遅刻してくる」というような事由について、懲戒処分をする場合、就業規則の懲戒規定の中にその事由が記載されていなければいけません。ただし、例外的に「明らかに企業秩序を乱し、企業目的遂行に害を及ぼす労働者の行為に対しては、準拠すべき明示の規範のない場合でも懲戒処分ができる(昭和26.7.18東京地裁)」とあります。

 

 2.就業規則に定められた処分の種類であること

  就業規則の懲戒規定の中で処分の種類を明記していなければいけません。種類として挙げられるのは、主に以下の通りです。

 

懲戒の種類     内     容
訓告 文書によって厳重注意をし、将来を戒める
けん責 始末書を提出させ、将来を戒める
減給 1回の額が平均賃金の1日分の半額、総額が1賃金支払期の賃金総額の10分の1以内で減給する
出勤停止 出勤停止を命じ、この期間の賃金を支払わない
降格 資格等級の引き下げや役職の引き下げ
諭旨退職 合意退職に応じるよう勧告する
懲戒解雇 解雇予告期間なしに即時解雇する

 

 3.行為と処分が均衡していること

  従業員が行った困った行為に対して、懲戒処分が適当であることが必要です。軽い行為に対して重い処分を課すことは良くないことです。ただ、その処分が妥当であるかどうかの最終判断は裁判所で争うことになります。

  また、以前に同じような行為をした従業員にはけん責処分だったのに、別の従業員には減給の処分になったというような、人によって処分が変わるような不均衡な対応も良くありません。ただし、一般従業員と管理職が同じ行為をした場合に、管理職のほうが重い処分になるのは、責任の程度により合理的であれば妥当である可能性もあります。

 

 4.就業規則等で規定された処分手続きを守ること

  懲戒処分は従業員にとって不利益なものであるから、その手続きが就業規則等で規定されているのなら、必ずその手続きを取らなければいけません。例えば、「懲戒処分を決定するには役員が集まって事実確認、本人の意見徴収を行った上で検討し決定する。」という規定があれば、必ずその手続きを行ってから処分を決定しなければ、処分が無効になることもあります。また、重い処分を課す場合は、本人の弁明の機会を与えることも必要です。

 

 5.二重処分の禁止

  1つの違反行為に対して二重の処分をすることは禁止されています。例えば、業務命令に従わないことに対して、けん責処分をした後で、同一の事案について減給することはいけないということです。しかし、業務命令に従わないことに対して1回目けん責処分を課し、その後また業務命令に従わなかった場合に今度は減給処分を課すのは構いません。

 

 6.不遡及の原則

  懲戒処分を課す場合、就業規則にその内容が制定された日以降の事案についてしか適用されないということです。平成27年4月1日施行の就業規則については平成27年3月中の事案について処分は出来ないということです。ただし、制定された日(施行日)をさかのぼった日付にして、処分するのも無効です。

 

 以上のようなことを守った上で、適切な懲戒処分を行うためにも就業規則に規定を設けるようにしましょう。懲戒規定の作成方法としては、どのような事をしたらどのような懲戒を受けるのかできるだけ列挙するようにします。ただ、厚生労働省のモデル様式のような「軽微な」「しばしば」「著しく」「重大な」などの文言は使用しないほうがいいと思います。実際の処分を決定するときに、何が軽微で何が重大なのか不明で決定できないということになるからです。

 

 懲戒規定のモデルは以下の通りです。

 

第○条(懲戒の種類と懲戒事由の適用)
 懲戒事由は、以下のとおりとし、情状に応じ、訓戒、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨退職、懲戒解雇に処する。
@ 無断もしくは正当な理由なく欠勤、遅刻、早退をしたとき
A 出退勤時刻にかかる情報の不正をしたり、不正を依頼した場合
B 第○章に定める服務の規定に違反した場合
C 刑事事件で有罪の判決を受けたとき
D 経歴を偽り、採用されたとき
E 故意または過失により、災害または事故を発生させ、会社に損害を与えたとき
F 職務上の地位を利用し、第三者から報酬を受け、若しくはもてなしをうけるなどしたとき
G 暴行、脅迫その他不法行為をして、会社の信用を害したとき
H 正当な理由なく、業務上の指示・命令に従わなかったとき
I 会社の業務上の秘密を外部に漏洩し、または漏洩しようとしたとき
J その他前各号に準ずる程度の不都合な行為のあったとき