業務によって大きく心理的負担を感じ、それが原因で精神的な病気にかかった場合、業務との因果関係が認められると労災認定が行われ、労災保険から治療費や休業補償が支給されます。ただし、この認定については「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」というものに基づき判断されていましたが、これが平成23年12月に新たに「心理的負荷による精神障害の認定基準について」というものに変更されました。この新しい基準は以前のものに比べてより具体的になり、労災になるかどうかの判断基準がより明確化したものと言えます。
1.「特別な出来事」の内容が具体的になる
「心理的負荷が極度のもの」として、強姦や本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為など具体例を明示したこと。
「極度の長時間労働」として、発症前1ヶ月におおむね160時間を超える時間外労働があること、または、同程度(例えば3週間で120時間以上)の時間外労働があることという時間を明示したこと。
2.心理的負荷表で強度の「強」「中」「弱」と判断する具体例が記載された
例として、重度の病気やけがをした場合は、「強」になるには、長時間(おおむね2ヶ月以上)の入院を要する、または労災年金に該当する若しくは原職に復帰出来なくなる後遺障害を残すような業務上の病気やけがをしたということが基準になる。
長時間労働についての基準は、発病前2ヶ月間に連続して1ヶ月あたり120時間以上の時間外労働をする、または発病前3ヶ月間に連続して1ヶ月あたり100時間以上の時間外労働をすると「強」になる。
3.特別な出来事以外の総合評価について共通の視点が明示されている
1)出来事後の状況として以下の状況に該当する場合は総合評価を強める要素となる。
・仕事の裁量の欠如。具体的には自分で仕事の順序・やり方を決める事ができなくなった等
2)出来事の前後に恒常的長時間労働(月100時間程度となる時間外労働)が認められる場合は、中程度と評価される出来事であっても総合評価は「強」となる
4.セクハラやいじめが長期間継続する場合は6ヵ月を超えて評価する
以上のような基準が記されたので、私たち社労士や事業主の皆様、労働者の方にとってどのような場合に労災と認定されるのか分かりやすくなりました。この認定基準をよく理解して、労災と認定されないような良い職場環境にしていきたいと思います。特に今回明らかにされた長時間労働の基準ですが、1ヶ月100時間をこえるような残業をすれば、精神疾患を発症する可能性が高いといわれていますので、事業主の皆様は労働者の残業時間を良く把握して頂き、残業を少なくする努力をして頂きたいと思います。