メンタルヘルス不調で労働者が休業してしまったり、退職してしまった場合、企業としては大事な労働力を失い、大きな損失になります。それが、業務上の原因で心の病気になってしまったとしたら、労働者が労災請求をして、労災認定がされる可能性が出てきます。そして、労災認定がされることによって民事上の損害賠償請求を提起されるリスクも生じます。そうなれば、企業イメージが低下し業績悪化につながるおそれもあります。そのような事態を防ぐために、事業所としては日頃から労働者の職場環境を良くする努力が必要になってくると思います。
労災認定されないために、どのような点に注意すればいいか以下で説明していきます。
1.長時間労働をさせない
1ヶ月100時間以上の残業をすると、それだけで「業務による心理的負荷表」では「強」とされ、労災認定され易くなりますので、100時間以上の残業は絶対させないようにすることが大事です。場合によっては1ヶ月80時間以上でも労災認定される可能性はありますので、できれば1ヶ月の残業は80時間までになるよう、時間管理して頂きたいと思います。例えば、1日4時間、1週間20時間で1ヶ月80時間になってしまいますので、残業しない曜日を決めるとか、業務効率を考えるとか、人員配置や増員を考えるなど対策が必要になります。
*残業時間は休日出勤も含めた時間です。
2.職場を相談しやすい環境にする
職場の周りから支援してもらえる環境であれば、ストレスが軽減されると言われますので、相談しやすい雰囲気をつくるよう心がけてください。例えば、慣れない仕事については先輩や上司のマンツーマンでの指導があるとか、仕事の相談はこの人に言えばいいというような担当制にするとか、1人でする仕事は作らないでチームで仕上げるとか仕事のやり方を変えるようにしてください。また、上司が仕事の進歩状況をチェックするようにし、進んでいない仕事については部下に声掛けをし、部下の話をじっくり聴くような体制を作って頂きたいと思います。
それから、職場で困ったことがあれば気軽に相談できる「なんでも相談窓口」を設置して、全従業員に周知するのもいい方法です。「相談窓口」という大層なものでなくても、総務に「なんでも相談メール」といった専用のアドレスを設けるだけでも従業員にとっては安心して働くことができるようです。
ここで大事なことは、気軽に相談してもらうために、個人情報は守られるということと、相談したことによって人事評価などで不利益な待遇は絶対にしないということを従業員によく周知するようにしてください。このことを怠ると、名前だけの相談窓口になりますので注意してください。
3.従業員の教育をする
ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行をうけた場合は、心理的負荷の強度が「強」となり労災認定される可能性があります。ひどい嫌がらせの具体例として
①部下に対する言動が、業務指導の範囲を超えており、その中に人格や人間性を否定するような言動がふくまれており、かつこれが執拗に行われた
②同僚等による多人数が結託して、人格や人間性を否定するような言動を執拗に行われた
③治療を要するような暴行を受けた
が挙げられています。要するに、業務の範囲を超えた行き過ぎた指導や業務に関係ないことを強要すること、または仕事を与えないことや無視すること、見下すしぐさをすること、他の従業員の見ている前で大声で執拗に注意することなどはパワハラとみなされて、それによって精神疾患にかかってしまった場合は労災に認定される可能性があります。
そのようなことを防ぐために、部下に対してどのような方法で教育すればいいのか、他の従業員と一緒にどのようにすれば気持ちよく仕事ができるのかなどを教育していく必要があります。どんなことがパワハラになるのか、パワハラをするとどんなリスクがあるのかをセミナー形式で教えたり、掲示板にポスターを貼って周知したり、朝礼や会議の時に発表したりして、まず従業員に意識してもらうようにして下さい。そして、パワハラやセクハラの行為は絶対に許さないという事業所の強い意思を全従業員に浸透させ、そのような行為があれば(見つければ)必ず相談するように教育して頂きたいと思います。
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